書物復権の注目本

毎年行われている絶版本をリクエストによって復刊するという素晴らしい企画、書物復権について。個人的な注目本をメモしておきます。

書物復権2018

2018年もラインナップが充実していて何よりです。書物復権は年によってかなり好みの差が出てきますけど、今年は大ヒットですね。

注目はイアン・ハッキング『知の歴史学』、クワイン『ことばと対象』、松宮秀治『芸術崇拝の思想』、瀧川裕英『責任の意味と制度』あたりですね。個人的にはどれも名著です。

書物復権2013

書物復権2013年の復刊候補一覧が公開されていた。しかし、候補書籍がジャンルごとに別ページになっていて不便。そこで、候補書籍のタイトルと概要を以下にまとめて転載しておこうかと思ったが、それをやると重複コンテンツで怒られてしまう。

仕方がないので、個人的に気になった本についてピックアップしつつ、簡単なコメントを入れておこうと思う。

哲学・思想・言語・宗教

1
岩波書店
ギリシア語文法
高津春繁
初版1964・最終版2010年◆A5判◆496頁◆予価7875円(本体7500円)
引例が豊富で、精密なギリシア文法書である本書は、文章論に詳しく、方言も取り入れ、ギリシア文学に親しもうとする人々にも便利なように配慮されている。

こういう文法書の復刊を見ると、よほど質が高かったのかなと思う。普通に考えたら、最近の本でも良さそうなものがありそうなものだけど、そういうわけでもないのだろう。やっぱり出版不況の昨今、あまり骨太な内容の本は出せなくなっているのだろうか?

よく見てみると、本書は最終版が2010年だ。50年近く読みつがれてきた定番書なのかもしれない。興味深いな。

2
岩波書店
意味の深みへ
井筒俊彦
初版1985・最終版1990年◆B6判◆306頁◆予価5355円(本体5100円)
古今東西の思想を渉猟し「意味の深みへ」と向かう碩学の思索は、思想のポストモダン的状況において、知の沃野が東洋哲学の世界を通して拡がることを示している。

むしろ本書が絶版になっていたことに初めて気づいた。井筒俊彦の本なら普通に売れると思ってたから。

9
勁草書房
意味の限界 『純粋理性批判』論考
P.F.ストローソン/熊谷直男ほか訳
初版1987・最終版1999年◆A5判◆384頁◆予価4410円(本体4200円)
イギリスの哲学者ストローソンのカント読解。〈経験に不可欠な構造〉についての分析的な議論を、〈学的ファンタジー〉から解き放って再構成する。

これ、ストローソンの復刊は本当に嬉しい。もう10年以上も復刊されないままスルーされてきたんだな。分析哲学を語る上で避けては通れない有名哲学者だと思うし、このカント解釈は一面的だと言われようとも、非常に魅力的だ。本書が復刊される背景には、日本における分析哲学の隆盛があるのだろうか。まあ、今どきポストモダンなんて言っているのはアレな人だけだしね。

ところで、みすず書房もストローソンの主著である『個体と主語』をいっしょに復刊するべきだと思う。ここに読者が一人いますよ! 頼みますよ、本当に。

10
勁草書房
ことばの進化論
D.ビッカートン/筧壽雄監訳
初版1998・最終版1999年◆A5判◆336頁◆予価5145円(本体4900円)
ことばはどのように獲得されたか? カエル、チンパンジー、人/幼児の表示体系はどう違うのか? 進化の視点からことばの本質と構造に迫る。

ビッカートンの『ことばの進化論』が品切れになっていたとは知らなかった。これも面白い本なので、復刊をお願いしたい。

11
勁草書房
意識の自然 現象学の可能性を拓く
谷徹
初版1998・最終版2004年◆A5判◆770頁◆予価10500円(本体10000円)
三部構成によりフッサール現象学の全体像を描く大著。第一部は思想的源流、第二部は内部構造、第三部では継承者の評価と今後の展望を語る。

谷徹『意識の自然』は大部だけど現象学系の人からの評判はかなり良い。実のところ分析哲学以外ではフッサールが気になっているので、本書も購入検討中。

12
勁草書房
シジウィックと現代功利主義
奥野満里子
初版1999・最終版1999年◆A5判◆344頁◆予価5985円(本体5700円)
自愛・博愛・正義の三原理を提起して、それらに厳密な分析を施したシジウィックの仕事を検証し、翻って現代倫理学の不備を批判する。和辻賞受賞。

法学系の人間として、功利主義にはとても興味がある。シジウィックにも当然興味がある。和辻賞を受賞しているくらいだから、本書の水準は高いはず。めちゃくちゃ読みたい。

13
勁草書房
ウィーン学団 論理実証主義の起源・現代哲学史への一章
V.クラーフト/寺中平治訳
初版1990・最終版1990年◆四六判◆320頁◆予価3465円(本体3300円)
フレーゲの新しい論理学に促され、従来の哲学の革新をめざした哲学者集団「ウィーン学団」の軌跡。現代哲学は彼らの主張なしには成立しなかった。

これも20年ぶりに復刊されるのか。論理実証主義は過去の遺物ではあるものの、哲学史に与えたインパクトは革命的だ。正直なところ、主張が論破されたとはいえその明瞭性と潔い態度に非常に好感を持っている。

17
春秋社
仏教インド思想辞典
高崎直道 編集代表
初版1987・最終版1987年◆菊判◆562頁◆予価15750円(本体15000円)
仏教とインド思想のトータルな理解のために370 の事項を厳選し、研究者はもとより学生・社会人まであらゆる層の要望に応える画期的辞典。

仏教インド思想なんて括りがあったのか、というところにまずビックリ。そして辞典が出ていたことに二度ビックリ。今では成立しにくい企画じゃないだろうか。バブル時代凄いなと思った。

24
法政大学出版局
ディドロ著作集1 哲学Ⅰ
ディドロ/小場瀬卓三、平岡昇監修
初版1976・最終版1992年◆四六判◆458頁◆予価6300円(本体6000円)
哲学断想/盲人に関する手紙/基本原理入門/ダランベールの夢/物質と運動に関する哲学的諸原理/ブーガンヴィール旅行記補遺/哲学者とある元帥夫人との対話/他

ディドロ著作集もようやく復刊されるようになったのか。最終版が20年以上前で入手しにくかったからね。研究者ならともかく、素人がアクセスしにくかったから。この復刊も良いね。

25
法政大学出版局
ベルクソン読本
久米博、中田光雄、安孫子信編
初版2006・最終版2006年◆A5判◆336頁◆予価3675円(本体3500円)
20 世紀の哲学に測り知れない影響をもたらし、現代思想の展開の軸となったベルクソンの思想を多角的に再検討し、ベルクソン・ルネサンスをめざすガイドブック。

ベルクソン読本も復刊されるはこびとなったかー。ガイドブックは馬鹿にされがちだけど、個人的には非常に面白い。いきなり原典を読める人なんていないし、同時代人じゃないんだから文脈や問題意識を知らなければ読解は不可能でしょうと思う。日本人は「読書百遍~」みたいな不合理な神話を美化しすぎ。

28
みすず書房
現象学の理念
エドムント・フッサール/立松弘孝訳
初版1965・最終版2004年◆A5判◆208頁◆予価3360円(本体3200円)
『論理学研究』以後の現象学の展開を語る講義録。〈超越論的・構成的現象学〉の理念の表明と、〈超越論的主観性への現象学的還元〉の方法の確立。

フッサールの講義録も出るのか。これも悪くないんだけど、みすず書房にはやはり『個体と主語』もお願いしたいものだなあ。

29
みすず書房
モードの体系 その言語表現による記号学的分析
ロラン・バルト/佐藤信夫訳
初版1972・最終版2004年◆A5判◆464頁◆予価7035円(本体6700円)
人間は自分たちの衣服から、どのようにして意味を作り上げるのか? ファッション・ジャーナリズムにお
けるモードの意味作用を探究した事例研究。

日本人はみんなロラン・バルト大好きだよなーと思う。

31
みすず書房
辺境から眺める アイヌが経験する近代
テッサ・モーリス=鈴木/大川正彦訳
初版2000・最終版2007年◆四六判◆312頁◆予価3150円(本体3000円)
日本とロシアは、アイヌなどの先住民族をどのように国家に組み込んできたのか。辺境という視座から、国民国家の辿った軌跡と先住民族の経験を追う。

これ、今回の書物復権で初めて知った本なんだけど、めちゃくちゃ気になる。アイヌ民族の視点から国民国家を眺めるのだろうか。ロシアとの関係性も知りたい。アイヌとロシアに関わりがあったのかな?

買って読んでみようかな。

社会

34
勁草書房
性と文化の革命
W.ライヒ/中尾ハジメ訳
初版1969・最終版1993年◆四六判◆336頁◆予価4200円(本体4000円)
性の置かれた普遍的な状態と、長年にわたる性経済の医学的経験から生まれたライヒの性社会学。フロムやマルクーゼの先駆をなす人間解放の理論。

60年台にこんな本が出ていたのか。経済学的分析よりも文化的視座のほうが気になるテーマだなあ。

36
みすず書房
政治論集1
マックス・ヴェーバー/中村貞二ほか訳
初版1982・最終版1983年◆A5判◆344頁◆予価4410円(本体4200円)
政治論集2
初版1982・最終版1982年◆A5判◆376頁◆予価4620円(本体4400円)
ヴェーバーによる政治へのあつい関心と冷徹な分析。教授就任講演から第一次世界大戦を経て、ヴァイマル共和国の成立にいたる期間の33 篇を収録する。

なぜ日本人はマックス・ヴェーバーを神格化しているのか理解できない。古典として見るべきところもあるとは思うけど、ビジネスマンとかにあまりにも人気すぎない?

37
みすず書房
現代議会主義の精神史的地位
カール・シュミット/稲葉素之訳
初版2000・最終版2000年◆四六判◆136頁◆予価2520円(本体2400円)
ナチス政権下の公法学者であったシュミット。ワイマール体制下、議会制民主主義を批判し、独裁理論を考察しながら、ドイツの新しい政体を模索する。

これ、現在はちくま学芸文庫化されていた気がする。翻訳者が別だったかな?

38
みすず書房
アメリカの反知性主義
リチャード・ホーフスタッター/田村哲夫訳
初版2003・最終版2006年◆A5判◆464頁◆予価5040円(本体4800円)
アメリカの知的伝統とは? 知識人は民主主義の実現に貢献する力になれるのか? 政治、宗教、教育… 建国から現代まで、歴史の地下水脈を問う。

反知性主義はホットなテーマだよね。森本あんりの本と読み比べてみたい。

42
紀伊國屋書店
アフリカの創世神話
阿部年晴
初版1965・最終版1981年◆四六判◆222頁◆予価2730円(本体2600円)
ディンカ族、ルグバラ族、ドゴン族……アフリカの諸部族が語り伝えた「創世神話」をもとに、その思念や
世界観を文化人類学の立場から探究した一冊。

「アフリカの創世神話」というテーマだけでもワクワクが止まらなくなる。文化人類学が本当に興味深い学問テーマだ。

56
法政大学出版局
博物館の歴史
高橋雄造
初版2008・最終版2008年◆A5判◆538頁◆予価7350円(本体7000円)
2010 年度全日本博物館学会賞受賞 古代王国の宝物庫からルネサンス期の〈キャビネット〉を経て、現代の公共博物館に至る歴史を方法論の形成を軸にあとづける。

2008年に出たばかりだったのに、もう絶版になっていたのか。学術書だから少部数発行だったのかな?

博物館というテーマが文化史的にとても魅力的なので、これは一読の価値あり。

70
未來社
マキアヴェッリ
スキナー/塚田富治訳
初版1991・最終版1996年◆四六判◆184頁◆予価2625円(本体2500円)
イタリア・ルネサンス期の巨人政治家の独創的な思想と人間について、現代有数の歴史学者が書き下ろした入門書。新しい視点でのマキアヴェリ像。

クエンティン・スキナーがこのラインナップに入っているのは嬉しい。この機会に岩波書店も『思想史とはなにか』を一緒に復刊して欲しい。

82
春秋社
自叙伝
G.K.チェスタトン/吉田健一訳
初版1973・最終版1999年◆四六判◆448頁◆予価3675円(本体3500円)
20 世紀前半、ヨーロッパの危機を背景に自由闊達に生き抜いた風変わりで特異な人物の推理小説風な、特異な物語。

83
春秋社
棒大なる針小
G.K.チェスタトン/別宮貞徳、安西徹雄訳
初版1975・最終版1999年◆四六判◆324頁◆予価3150円(本体3000円)
多芸多才な著者の業績のうち、ジャーナリスト、文芸批評家、シェイクスピア学者としての代表作と、逆説と警句にみちた表題作を収録。

84
春秋社
狂気と正気の間
G.K.チェスタトン/上杉明訳
初版1977・最終版1999年◆四六判◆304頁◆予価3150円(本体3000円)
社会哲学者としての著者が「資本主義と社会主義」政治体制の狭間に押しつぶされていく〈普通人〉の救済の道を模索した社会・政治論集。

ブラウン神父で有名な作家チェスタトンの社会論考が出ていたとは知らなかった。それが翻訳されていたことも。これは読みたいな。

自伝も出るようだし、いいチョイスだわ。科学・医学

>> 書物復権 公式サイトはこちら

あと、『現存した社会主義 リヴァイアサンの素顔』については東大教師が新入生にすすめる本か何かで名前を見た記憶があり、復刊されたら買うかもしれない。