『キリスト教文化の常識』石黒マリーローズ著 読書感想

石黒マリーローズ『キリスト教文化の常識』を読みました。講談社現代新書の中の一冊で、タイトルの通り世界中で広く信仰されているキリスト教の文化への影響について書いています。

キリスト教文化の常識 (講談社現代新書)
キリスト教文化の常識 (講談社現代新書)

著者はレバノン生まれのカトリック信徒ですね。本書も主にカトリックの観点から書かれていますが、一応カトリック以外の宗派についても説明がしてあります。カトリックとプロテスタントの違いがわからないという人はあまりいないと思いますが、プロテスタントの宗派の違いには無頓着な日本人がほとんどだと思います。本書はごく僅かですがその点についても触れているので、宗派内部でも違うんだなということを意識できます。

日本ではピンと来ないかもしれませんが、主要国のほとんどがキリスト教国である現在、海外の文化的背景について知るためには宗教の理解を避けて通ることができません。

これは一時期喧伝された「真の国際化」とかそういう話とはまた違う次元でも重要です。相手の行動指針のようなものを深く理解すれば、相手の出方を予想するなど競争的な場面でも優位に立つことができますし、共同して事にあたるようなケースでも無用な衝突を回避したり、より積極的に相手に強い印象を与えたりすることができます。つまり、キリスト教国と関係するときに重要な武器になるわけです。国際化=他国の模倣だと考えてこれに否定的な評価を下す人であっても、このような競争戦略上のメリット否定できないでしょう。

ですから、「国際化」やキリスト教に対するスタンスはどうあれ、我々日本人はもっとこの世界宗教についての理解を深めておく必要があると思うわけです。

そしてそういう側面から見ると、本書は類書で中々見られない日抜いところに手が行き届いているという印象の本です。あまり学問的にならず、エッセイのように気軽に読み通すことができます。

今でも根強く残っている人名や地名についての影響から、映画や文学でも頻繁に目にする宗教的なモチーフ、多くの人びとが従うライフサイクルや価値観など、その中で暮らしてきた人にしか書けないような切り口で、日本人にかけている理解を上手く補ってくれます。

体系的に書いていると言うよりは、ちょっとしたコラムの集積という感じで、気軽に読める読み物ですね。まさに新書という感じです。

個人的には慣用句に残る宗教的な言い回しなどが興味深かったです。あと聖人などについての情報が結構入ってたのも印象的でした。欧米人の名前にも影響が残ってるんですね。

元々私の知識が不足しているという側面もあるかもしれませんが、本書は多くの人にとって一読の価値がある本なのではないかと思います。

ところで、キリスト教についての情報を得たなら、今度はイスラム教についても学んでみたくなりますよね。ユダヤ教についてももっと知りたいですし。これくらい軽い気持ちで読めるざっくりした宗教関係の新書がないかどうか、ちょっと探してみたいと思います。

なお、日本人が意識しておくべき宗教関係の事項が書かれている新書としては、藤原聖子『世界の教科書でよむ〈宗教〉』 (ちくまプリマー新書)も読みやすくてお勧めです。世界の国々で宗教の授業にどんな教科書が使われているのかを調べ、そこから各国の宗教に対するスタンス(あるいは政治的なスタンス)を浮かび上がらせるというコンセプトの本で、日本では中々手に入らない情報があって面白かったです。