カントは当時の最新の欧州情勢に詳しかった!?

池内紀氏の書かれた『カント先生の散歩』という本に興味深いことが書かれていた。

【追記】いつの間にか新潮文庫版が出ていた。

潮文庫 カント先生の散歩
池内紀
潮出版社 (2016-07-01)
売り上げランキング: 32,223

私はまったく知らなかったのだが、カントにはジョゼフ・グリーンという友人がいたらしい。この友人は異常なほど時間に正確な人間であり、時間通りに行動するという後年のカントのイメージはこの友人の習慣から影響を受けたのではないかということだ。そのような影響を受けるのも当然だと思えるほどに、カントはこの友人との時間を重視していたらしい。

これまた私は知らなかったのだが、若いころのカントは世俗に興味が無いどころか最新の情報が集まる現在でいうところのメディアセンターのような所で暮らしており、後年の哲学者のイメージとは違って世俗にどっぷり浸かっていたようだ。カントが住んでいたのは彼の論文を出版していた出版社の社屋で、そこは書店もやっていて店の奥では常連客がサロンのようなことをしていたらしい。さらに同じ社屋のホールでは、カントや他の教授が講義を行うこともあったのだとか。

なるほど、メディアセンターという言い方も納得がいく。カントが出版前の本を部屋で読む特権を与えられていたという話も興味深い。というか、羨ましく思えるw

この出版社は新聞も発行していたらしいし、そういう場所に住んでいたわけだから、海外情勢などもよく知っていたという話だ。今だと若いころのカントはジャーナリストっぽいイメージの方が近かったのかもしれない。もちろん学問的なことができないという意味ではないのだろうけど、実に意外な気がする。

そしてそんなカントが友人としたグリーン氏はかなりやり手の商人だったらしく、細心の海外情勢にも通じていたとのことだ。しかもそればかりか学問的なことにも興味関心を持っていたようで、頻繁にカントと議論を行っていたらしい。その交流の中でカントは海外の最新情報にも触れていたし、実際に二人の議論は近い将来起こる政治的な出来事を正確に言い当てたりしていたようだ。アメリカの印紙条例の成立、それへの抵抗と撤廃まで正確に予測していたというから、相当レベルの高い議論だったのだろう。

こういう具体的なレベルでの知識の積み重ねがカントの著作に目立たないように見えるのは、意図的にこのような具体的な要素を省いていたに過ぎず、それ以外のことを知らない学問バカだったわけではないんだなといたく感銘を受けた。

というか、当時の哲学者たちはサロンで活発に議論する中で自らの考えを形成していたらしいから、社交性が全くない人間に深い思索はできないのではないかという気もする。そう考えると学問的業績と社交性を択一的に捉えがちなステレオタイプがいかに虚しいものなのかがわかる。