2018年出版の学術系文庫おすすめ本ベスト3

2018年も残りわずかとなってきたので、今年出版された学術系文庫本の中からおすすめの本を選びたいと思います。小説は別枠で紹介する、かもしれません。

あくまでも私が読んだ中でのおすすめなので、個人的な興味関心が色濃く出ています。ジャンルの偏りなどもあります。世間的な評価はイマイチな本が含まれているかもしれません。

でもそれが個人ブログでおすすめ本を選ぶ良さだと思うので、あえて世間一般に迎合したりはしません。ご了承ください(まあ、そこまで気にする人はこのブログを読んでないと思いますが)。

エルンスト・カッシーラー『国家の神話』(講談社学術文庫)

国家の神話 (講談社学術文庫)

国家の神話 (講談社学術文庫)

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エルンスト・カッシーラー
講談社
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まず挙げなければならないのは、エルンスト・カッシーラーの『国家の神話』だと思います。

まさかカッシーラーの著作が講談社学術文庫に入るとは想像もしておらず、書店で見かけたときには我が目を疑いました。しかも上下巻ではなく600ページを超える分厚さです。本好きには嬉しい厚さですね。逆に文庫でこのサイズ感は、軽い気持ちで手に取る読者を拒絶しているかのようでもあります。

まあ、さすがに哲学者カッシーラーについてまったく知らずに本書を衝動買する人はあまりいないと思いますが。

内容についても圧巻の一言。カッシーラーの分析の鋭さは本当に素晴らしいと思います。第二次世界大戦時の同時代批判が、現代社会を理解するための洞察を与えてくれるわけですからね。まさに名著は普遍的、時代を超えた射程を持っているなと思います。

人文科学が軽視されがちな昨今、哲学や哲学史が社会とどう関わってくるのかを考える上でも、こういった名著を読むことは有益だなと改めて感じました。

ちなみに、本書で取り上げられているヘーゲルについては今年『精神現象学』の新訳や『世界史の哲学講義』が文庫化されています。特に後者については、合わせて読んでみるのも面白かもしれません(哲学の素養がある人のみ。普通の人がいきなりヘーゲルに手を出すべきだとは思わないし、予備知識無しで読んだら害にしかならないので)。

リチャード・E・ルーベンスタイン『中世の覚醒』(ちくま学芸文庫)

中世の覚醒 (ちくま学芸文庫)

中世の覚醒 (ちくま学芸文庫)

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リチャード・E. ルーベンスタイン
筑摩書房
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続いては、ちくま学芸文庫から出たリチャード・E・ルーベンスタイン『中世の覚醒』です。元々は紀伊國屋書店から2008年に出版された翻訳本で、10年後の今年ついに文庫化されました。

副題である「アリストテレス再発見から知の革命へ」という言葉が示しているように、中世における西洋哲学史上の大事件、「アリストテレス革命」を描いています。

あまり詳しくない人からすると仰天するような話なのですが、アリストテレス哲学はイスラム世界から中世ヨーロッパに逆輸入された思想なんですよね。イスラム世界の方がギリシア哲学をしっかりと保存していて、本場ではすっかり忘れ去られていたという。

そんな古くて新しい合理的な哲学が入ってきたことによってカトリック教会内で大きな論争が巻き起こり、結果としてカトリック教会の神学思想そのものを変容させていくわけです。そうしたダイナミックな歴史を丁寧に描いているのが本書となります。

昔私が中世哲学に興味を持った頃、本書を購入しようと思ったら版元品切れで入手できなかった記憶があります。それが文庫化されたわけですから思い入れ深いです。

ちなみに原著は2003年に出版されたのですが、著者は歴史家でも哲学者でもなく、国際紛争解決を専門とする学者なんですね。最終学歴はハーバードロースクールだそうです。人種問題とか社会正義等に関する著作も多く、実際にベトナム戦争の反戦運動も支持したりしていたのだとか。

そんな方がなぜ中世思想史の本を出したのかと言うと、90年代後半あたりから興味関心を宗教的な紛争に移してきたからのようです。つまり、なぜある種の宗教論争は暴力を伴い、別の論争はそうではなく解決できたのか、みたいな話ですね。そう言われれば、たしかにこの論争は暴力的にならなかったわけですから、格好の研究材料だったのでしょう。

それにしても、いくら興味関心に掠るとはいえ、よくぞこれだけ立派なものを書きあげたものだなと感心してしまいます。自力でこれだけ研究できるほど欧米の大学の教育レベルが高いってことなのでしょうか。

佐伯胖『「きめ方」の論理』(ちくま学芸文庫)

「きめ方」の論理 (ちくま学芸文庫)

「きめ方」の論理 (ちくま学芸文庫)

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佐伯 胖
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次もちくま学芸文庫からの一冊です。佐伯胖『「きめ方」の論理』が文庫化されております。佐伯胖先生といえば認知科学の分野で色々と定評ある本を出されていますね。

本書は元々1980年に東京大学出版会から出版された本なのですが、社会的決定に関する入門書として長年読まれてきた名著です。本当に、大学新入生向けのブックガイドなどを眺めていると、しばしば本書の名前が登場します。どこかのビジネス書でも名前を見たような気がします。それくらいメジャーです。

そんな本が文庫化されたわけですから、これはおすすめ本として選ばざるを得ません(世間一般への迎合)。まあ、実際に内容の質の高さは折り紙付きですし、個人的にも好きです。少なくとも、難しすぎて歯が立たないということはなかったように思います。

それにしても、なぜこのタイミングで文庫化されたのでしょうか? なにかきっかけでもあったのか、個人的にはかなり気になるところです。

まあ、名著が手頃な値段で手に入るようになったので、読者としては手放しで喜べますけど。

まとめ

今見たら文庫オリジナルがなくて、3冊とも全部単行本の文庫化ですね。

まあ学術系の文庫なんてほとんどがそんなものかもしれませんが。

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