分析哲学系の文献を読んでいて、意味論(semantics)と構文論or統語論(syntax)という用語がしばしば出てくる。言語学ではなく哲学で出てくる。
分析哲学が「言語」を重視して分析する哲学だし、そもそも言語学は哲学からの派生だから当然といえば当然なんだけど。まあ割と重要な概念。
実は昔、これらの概念について曖昧なままダメットの反実在論に関する文献を読んで、意味論的概念だと構文論的概念だの言われて混乱してしまったことがある。でもその後、ダメットの反実在論の理解を通じて、意味論というものについて見通しが立ってきた。意味論との比較から構文論についても、自分なりにすっきりとした見取り図ができた。
そこまでやってから、言語学などの処分屋における「意味論」と「統語論」について辞書で調べたところ、自分の理解がもっと適切な言葉で説明されていてショックを受けた。
最初から辞書や百科事典に当たっておけってことね……。このことは苦い教訓となっている。
で、急にこんなことを書いたのは、このブログに「意味論と構文論(統語論)の違い」というキーワードでアクセスしてくる人が一定数存在しているから。なんだか昔を思い出したので。
せっかくのネタなので「意味論と構文論(統語論)の違い」について書いてみる。
意味論とは?
言語学や数学、論理学など色々な分野に「意味論」と呼ばれている分野が存在している。端的に言えば、それは意味に関することを扱う分野だということになる。
「指示」や「真理」、「前提」とそれが持つ「含意」といった概念に関わることを探求するのが意味論。語の意味の分析や概念間の関係性などを扱ったりする。
哲学で「意味論的概念」とか言われたら、大抵は「指示とか真理に関係がある概念なのかな」と理解すればだいたい通じる。多少乱暴だけど。
文脈によっては指示対象にまつわる話題なんかも意味論的な範疇に含まれる。ある言葉(記号)が対象との間に取り持つ関係を探求したりもする。
ついでに言うと、“theory of meaning”という専門用語もあって、これはスタンフォード哲学百科事典で1つの長大な項目を形成するくらいに複雑。
⇒ Theories of Meaning (Stanford Encyclopedia of Philosophy)
構文論(統語論)とは?
で、構文論はこれらの意味論的概念とはまったく無関係に形成される、文の構成変形規則についての理論だと思えばいい。
意味論的概念とは無関係だから、いちいち何かを指示したりはしない。真理とか実在との指示関係とか、概念間の関係性とか、そういう意味論的概念が混入しないところで議論する。
乱暴に言えば、意味を捨象した、公理と導出規則による記号変換ゲームだと思えばだいたい通じる。狭い意味で「文法」と言ったら、構文論とか統語論のことを指したりもする。
数理論理学の証明論なんかが典型例、なのかな。
意味論と構文論の違いとは?
ここまでのざっくりした説明でもわかるように、意味論と構文論は扱っている対象がぜんぜん違う。意味論が扱う「指示」や「真理」や「意味」のような概念は、構文論では一切出てこない。