『合理的とはどういうことか 愚かさと弱さの哲学』(講談社選書メチエ)を読了。
著者の岡部勉は現在熊本大学文学部教授を務めているそうで、
他の著書に『行為と価値の哲学』があるとのこと。
一般書だからなのか、「と思う」ばかりで必ずしも根拠が示されていない主張も多く。
その点がかなり気になるところ。
特に専門家とアマチュア、専門性と一般性を対置させるかのような記述は、
ほとんど説得力がないように感じられた。
専門家の仕事が不合理であるなら、それは批判されるべきことであって、
つまり専門家の仕事は合理的であるべきだということになるはずだ。
仮に本書のように合理性を一般人の納得という意味で使うとしても、
専門家の仕事を合理的なものであるべきだと考えることの障害にはならない。
専門知識というものは説明すれば一般人でも納得できるものであるはずだ。
さもなければ、専門知識を教えることができなくなり、専門家は絶滅するだろう。
なぜなら、専門家になるのはそれまで一般人だった人々だからだ。
それとも、専門家になるような人間は生得的な要因が一般人とは違う、
などというのだろうか? そうではないだろう。
いわゆるプロの専門家ではなくても、専門的な説明を理解したり、
順序立てて説明されれば納得することができる人は大勢いる。
つまり、専門家と素人の差は、著者が考えているほど大きくないと思われる。
じゃあ専門家がやっていることは何かというと、
合理性が社会的な要求であるとして、
その要求の基準を上げることではないかと思う。
「より合理的」な説明を与えることで知識の変革を促す。
これではないのか。
だからこそ、単なる社会通念を破壊する主張と専門的な主張が区別される。
それこそ不合理な主張であっても人々が受容すれば通念変更はありうるが、
不合理な主張が専門的であるというのは明らかに奇妙だ。
とはいえ、色々と考えさせられた点で有益な本だとは思うし、
合理性そのものについての哲学的な思索というのは日本語だと類書がほぼ無い。
故に、このテーマに興味がある人は一読の価値があると思う。
追記
最近は合理性に関する著作が色々と増えてきている気がする。
合理性の逆向きである「不合理性」をテーマにした書籍も出ており興味深い。
このテーマについて、じっくり読んで考えてみるのも良いかもしれない。
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