新書

『ことばと思考』今井むつみ

今井むつみ『ことばと思考』(岩波新書)を読み終わりました。認知心理学の成果をもとに、サピア=ウォーフの仮説の実証的検討を通じて言語と思考の関係を探った本です。
一貫した問題意識から叙述しているので、全体の構成が読み取りやすくなっています。様々な実験結果の紹介も、「なぜそれをここで紹介するのか」「その実験によって何がわかるのか」などがはっきりしており、とても読みやすいです。

ことばと思考 (岩波新書)
ことばと思考 (岩波新書)

個人的に面白かったのが、言語習得が子供の思考に及ぼす影響の話です。言語と思考の影響関係の検討となると、異なる言語話者における思考の違いばかりを考えていたのですが、たしかに子供の言語習得前後でどんな違いがあるのかに目を向けるのも同様に重要ですね。目からウロコが落ちました。

新書で読める認知心理学の入門書はいくつかあるかと思いますが、本書はその中でも屈指の良書だと思います。心理学や言語学に興味がある人のみならず、人間の思考そのものに関心がある人はぜひ読んでほしいです。

あと、個人的には、onの接触支持、inの包含という英語の語感や、日本語の「はめる」のピッタリフィット感など、意識していなかった言語的な違いが興味深かったです。こういう認知言語学的な情報が、学校教育の場面にいまいち浸透していないあたりに日本の英語教育の問題があると思います。

目次

序章 ことばから見る世界―言語と思考

第一章 言語は世界を切り分ける―その多様性
色の名前
モノの名前
人の動きを表す
モノを移動する
モノの場所を言う
ぴったりフィットか、ゆるゆるか
数の名前のつけ方

第二章 言語が異なれば、認識も異なるか
言語決定論、あるいはウォーフ仮説
名前の区別がなくても色は区別できるか
モノと物質
助数詞とモノの認識
文法のジェンダーと動物の性
右・左を使うと世界が逆転する
時間の認識
ウォーフ仮説は正しいか

第三章 言語の普遍性を探る
言語の普遍性
モノの名前のつけ方の普遍性
色の名前のつけ方の普遍性
動作の名前のつけ方の普遍性
普遍性と多様性、どちらが大きいか

第四章 子どもの思考はどう発達するか―ことばを学ぶなかで
言語がつくるカテゴリー
モノの名前を覚えると何が変わるのか
数の認識
ことばはモノ同士の関係の見方を変える
言語が人の認識にもたらすもの

第五章 ことばは認識にどう影響するか
言語情報は記憶を変える
言語が出来事の見方を変える
色の認識とことば
言語を介さない認識は可能か

終章 言語と思考―その関わり方の解明へ
結局、異なる言語の話者はわかりあえるのか
認識の違いを理解することの大事さ

あとがき

参考文献

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