後藤和久『決着!恐竜絶滅論争』(岩波科学ライブラリー)を読み終わりました。某ブログの書評で良い感じだったので読んでみたのですが、期待通り面白かったです。
本書は、恐竜絶滅の原因について、論争の過程と学会で決着がついた内容とを一般向けに紹介するものです。本書が生まれた背景には、2010年に発表された一本の論文があります。
この論文は地質学者や堆積学、古生物学、地球物理学、地球化学、惑星科学などの、専門を異にする41人の研究者たち(本書の著者を含む)の連名で発表されました。その内容は、恐竜絶滅の原因について学会で定説となっている「衝突説」の内容と根拠、反対説では説明できない点について述べたもので、マスメディアや一般の人にもわかりやすいよう配慮されています。
とはいえ、この論文はこれまでの議論の総まとめのようなものです。いったいなぜこのような論文を発表する必要があったのでしょうか?
本書はこの論文の内容と、論文を発表する必要が生じた背景について、予備知識のない日本の読者に向けて紹介するものです。
「衝突説」の根拠となるデータ、なぜそのデータが根拠となるのかの説明、反対説の不十分性などが予備知識のない人間でもわかるように要領よくまとめられています。まさに論争の決定版という感じで信頼できます。
さらに、類書にはない長所としては、論文発表の背景にあった学会での論争史にも触れられていることです。新たな証拠によって衝突説が徐々に支持者を増やしていく様子や、反対説がどんどん苦しい立場に追いやられている様子がよくわかります。
個人的に、反対説論者の主張の背景に、他の時期の絶滅原因も一括して説明したいという恐竜絶滅原因とは別の動機も混ざっているのではないかという指摘には説得力を感じました。議論をしていると、別の論点が混入してきてしまうことは多々ありますからね。
それにしても、ドラえもんの映画(竜の騎士)を子どもの頃に見て以来、恐竜絶滅の原因なんてとっくに衝突説で決着済みだと思っていました。当時はまだ、決定的な証拠であるクレーターが見つかっていなかったのだから、この思い込みは危険なものだったわけですが(^_^;)
あと衝撃的だったのが、学会の査読を通過できないからといって、インターネットを通じて自説を展開し、マスコミに働きかける反対説論者の戦略。インテリジェントデザイン説みたいですね。学問じゃなくて、政治的運動ですよ。
我々もイメージだけで判断しないよう、注意しなければなりませんね。