吉村作治『ピラミッドの謎』を読了しました。本書は岩波ジュニア新書の中の一冊ですね。
ピラミッドと言うよりも古代エジプト全般についての簡単な解説書といった感じです。
もちろん、ピラミッドの謎を理解するためには当時の社会についてしっかり理解しておく必要があるので、こういう構成の本になったのは必然だったのでしょう。
私自身としては、古代エジプトについて興味をもったときに予備知識なく読める本を探していたので、ニーズに合っていて想像以上に良かったです。
吉村作治『ピラミッドの謎』の感想:ピラミッドは王墓ではなかった?
さすが岩波ジュニア新書だけあって、中高生でも読めるような平易な表現なのが嬉しいところです。軽快な筆致で書かれているので、リーダビリティはとても高いと思いました。このあたりは、さすがメディアでも有名な学者だけあって、一般大衆のレベルをよくわかっているなと感じます。どうしても正確性にこだわりがあるのか、学者の書いた本は往々にして過度に難しくなりすぎたり、無味乾燥になったりしますからね。
本書を読んでまずビックリしたのが、ピラミッドが王墓ではないという話。これは中々に刺激的です。本当なら教科書を書き換える必要があるのではないでしょうか?
また、ピラミッドの作り方について、従来教科書などに書かれていたやり方では問題があることを、著者は実際に小型ピラミッドを作成することで明らかにしたそうです。
これは多くの援助などを受けての実験だそうだが、実際に作ってみて検証するという発想に驚かされた。こういう実証的な作業によって、机上の空論ではなく実験的に古代エジプトの謎が解明されていくのは、手法としてもそのせいかとしてもとても面白いと思いました。
やっぱり古代文明に関する本が面白いかどうかは実証的かどうかによると思います。我々は古代の謎が科学によってどう説明されるのかが知りたいのです。見解そのものの新奇性を求めるなら、それこそ雑誌「ムー」でも読んでいればいい。わざわざ新書を読むのは、実証性に期待してのことです。そしてその意味でも本書はレベルが高いなと思いました。
ツタンカーメンの呪いの正体は?
他にも、ツタンカーメンの呪いについて、あれがジャーナリストによって作られたうわさ話にすぎないという指摘も興味深いですね。カーターに対する反感などが報道側にあったこと、そもそも関係者の死因は前々からあった持病によるものであることなどは、恥ずかしながらほとんど知りませんでした。
こういうメディアによる情報の変容とか、噂話の拡散については、まさにネット社会で頻繁に起こっていることです。しかしその代表例がツタンカーメンの呪いだったとは、実に驚きました。
こういう情報は訂正することが難しく、訂正した情報は面白くないので拡散されないという問題があるからこそ、これだけうわさ話が真実であるかのように生き残ったのでしょうね。ネットの悪評は消しにくいといいますが、まさに同じようなことが現実社会でも昔から起こっていたのでしょう。それがツタンカーメンと関係していたとは知りませんでしたが。
クレオパトラの鼻が低くても…?
さらに、クレオパトラが絶世の美女というよりは、その才知によって愛されていたという話も興味深いと思いました。
どうやらたとえクレオパトラの鼻が低くとも歴史は変わらなかったみたいですね。これは痛快な指摘だと思います。なんか気の利いたシーンで使ってみたいですね。一生縁がなさそうですけどw
古代エジプトを身近に感じられるエピソードにあふれており、学生から大人まで広い年齢層に受け入れられそうです。小学生の夏休みの読書感想文の題材にもちょうど良さそうですよね。
エジプトに興味があるなら読んでおいて損はない一冊だと思います。
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