これを書評と呼ぶのは微妙だけど、まあ読書メモのようなものだと思って欲しい。自分用のメモ。
・松本曜『認知意味論(シリーズ認知言語学入門 第3巻)』(大修館書店)
認知意味論の一つ一つの理論を丁寧に解説してくれている。記述もわかりやすいので予備知識がない人でも理解できるだろう。というか、実際に私が予備知識のない人間だったので、かなり参考になった。日本語で認知意味論について標準的なまとまった記述のある本は少ないように思うので(もっとも、私の探し方が悪い可能性も十分にあるが)、本書にはとても助けられた。
・阿部謹也『自分のなかに歴史をよむ』(ちくま文庫)
阿部謹也先生の自伝にプラスして、西洋中世史の勘所のようなものを説明している。西洋中世史を、大宇宙と小宇宙という二つの宇宙観の関係から鮮やかに読み解いていて面白い。この視点が面白かったら他の著書に進むのが良さそう。著者の自伝的な部分も面白い。自分の体験が学問に反映されているのがよくわかる。
入門的な本なのか予備知識がなくても結構とっつきやすいのではないだろうか。
・オリヴァー・サックス『火星の人類学者』(ハヤカワ文庫 NF)
人間とは何かという問題に直接関わってくる。さらに、刑法などの法的責任判断において重要な意味を持つ「人格」概念についても、有益な示唆を与えてくれるように思う。特に、火星の人類学者で述べられているのは、行動面では禁止などの法的ルールによって制御されうるが、しかし他者への心などを理解できず苦しんでいる人間の姿だからだ。刑法の目的や機能を論ずる際に、こういった人間の本質についての事実に即した理解が必要なのではないか。
人間の認知についての興味深い事例を読もうと思い、軽い気持ちで手にとった本書だが、その内容は非常に深い。万人が読むべき良書だと思う。