齋藤孝『暗記力』 読書感想

齋藤孝『暗記力』を読了。

基本的な主張には概ね賛同できる。特に、知識の暗記はものを深く考えるための最初のステップであることを強調しているところには好感が持てた。

暗記力
暗記力

なぜか世間では、暗記力と発想力が対立するものだと考えられている節がある。しかし、圧倒的な知識がなければ、それを超えた発想というのは出てこない。つまり、知識量は土台として絶対に必要な物だ。

物事を理解するという面でも、知識量の多い人のほうがより深く理解できる。理解するとは、自分の中の既存の知識に関連付けることなのだから、これは当たり前のことだ。

同時に、多くの物事に関連付けることでより一層物事を記憶しやすくなる。つまり、知識量の多い人ほど物事を深く理解し、理解した新しい知識を記憶しやすくなるという正の連鎖が生じるわけだ。

知識の暗記というのは、現代日本の一般人がイメージしているよりもずっと重要な要素なのだ。

このことをハッキリと書いている点は高く評価したい。

このような抽象的な効用を説いても重要性がよく分からない人のために、著者は暗記することの実用的なメリットを挙げている。それは、「一歩踏み込んだ使える知識を話すことで、会話のネタになる」というもの。

これは会話の相手をアウトプットの道具に出来るという意味で、こちらのメリットにもなる考え方だし、相手も新しい知識を聞くことができるというメリットが有るウィンウィンの考え方だと思う。一歩踏み込んだ内容の知識を披露すると、相手も感心してくれるし心象も良くなる。それに体験として耳から入った情報は記憶に残りやすいので、相手がそれを覚えられる可能性も高い。もちろん、自分もアウトプットすることでエピソード記憶化することが出来る。これは互いにメリットになるだろう。

アウトプットするということは、自分の記憶の定着も良くするわけで、齋藤孝は昔から他人に教えることを繰り返して知識を記憶してきたらしい。独り言でもありみたいだ。とにかく、エビングハウスの忘却曲線を考えればわかるように、新しい知識はすぐにアウトプットして復習おくほうがよい。そうすると他人に話す前に、まずは自分で架空の聞き手を想定して教えるように話してみることが良いだろう。

他に印象に残ったところとしては、身体的な「技化」するということ。1万回繰り返して技化するという話のところに感心した。特に、空手の型というのが、必要な身体的感覚を養うために必要となる動きであって、そのまま実戦で使うためのものではないというところに感心した。

蛍光灯のヒモでシャドーをしてしまう典型的日本人男性の私だが、中々思ったところにパンチを当てられずに苦労した経験がある。狙った場所に当てることはそれほど難しいのであって、空手の型は威力の出るフォームで思った場所にパンチを当てるときの身体感覚を養うための運動なのだと言われれば、なるほど腑に落ちる。同時に型に対する常套的な批判は完全に的はずれなのだなと納得した。

引用や暗唱の重要性についても書かれており、特に欧米の教養というのが古典の引用を前提としたものだということはもっと強調されてもいいと思う。ただ、日本語訳を暗誦するのはそれほど意味があるのか怪しいなという感想だが……。

もちろん、格調高い翻訳にはそれだけの価値があるんだろうけど、国際社会で求められている教養とは違うんだろうと思う。この辺りの話がもう少し知りたいところなので、齋藤孝の他の本も読んでみようかと思っている。

正直なところ、これまで齋藤孝の本にはあまり感銘を受けなかったのだが、本書は私個人の興味関心とも重なっているところがあり、非常に面白く読めた。暗記の重要性がわかっていない人にこそ、ぜひ本書を読んで貰いたい。

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⇒ 齋藤孝『齋藤孝のざっくり!世界史』祥伝社黄金文庫

『テロルの決算』沢木耕太郎

沢木耕太郎の『テロルの決算』(文春文庫)を読み終わった。日本社会党党首浅沼稲次郎暗殺事件を扱った、ノンフィクションの傑作だ。

実は沢木耕太郎の作品を読むのはこれが初めてだったりする。友人が『深夜特急』をよく読んでいたので名前は知っていたのだが、そもそも紀行小説だとかノンフィクション作品だとかに興味がなかったのでスルーしていた。人に薦められなかったら、おそらく今後も読もうとは思わなかっただろう。

しかし、読んでみると意外にも面白い。浅沼稲次郎と山口二矢、被害者と加害者の人生を再構成することで、背景まで含めて暗殺事件を描き出そうとしており、実際かなりの程度成功していると思う。取材した範囲を超えて対象の内面に踏み込みすぎないよう抑えられた筆致が良い感じ。きちんと取材されているノンフィクションというのも案外悪くないなと思った。

『知的財産法入門』(小泉直樹)感想

知的財産法入門』という小泉直樹さんの本を読了したので、その感想です。

本書の特徴、あるいは長所を一言で言えば、予備知識がない人でもスラスラ読めるリーダビリティの高さに尽きますね。

この本を手に取る人が知りたいであろう大まかなことは押さえてあるので、まさに入門書として適切だと思います。

法学関係の入門書は、なぜか細かい条文や要件効果ばかり書く人が多く
本当に知りたいことが見えてこないケースが多いです。

まったくの法律の素人が、細かな条文解釈や要件を求めて新書を購入するでしょうか?

むしろ多くの人は、全体的な見通しを付けるために新書を読むと思います。

それも著者が一定程度の水準を保っており、内容も信頼が置けると推測できることが、岩波新書の入門書を選ぶ理由でしょう。細かい要件効果を確認したいなら、一段高いレベルの教科書に当たりますよ。

その点この本は岩波新書の読者のニーズが分かっていますね。

はっきり言って、新書は細かいことよりもケースや全体像、制度趣旨を中心に
伝えるのが一番だと思います。

それ以上知りたければ、読者は勝手に教科書や概説書をゴリゴリ読みますから。

学習という意味ではざっと全体像把握しておいたほうがゲシュタルト構築しやすく合理的だということを知っておくべきです。

その意味で、この本は知的財産権や関連諸法に興味のある人におすすめできます。

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